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タウンニュースARTICLE 一面記事

2019年11月28日号

2人で気負わず、再船出

 

▲自慢のピザを前にする曲山さん夫婦。奥の石窯は渉さんが手作りしたもの

定年を経て自宅で起業 曲山渉さん、幸枝さん夫婦(行方市)

 行方市小貫の曲山渉さん(61)、幸枝さん夫婦は令和元年8月、自宅の入り口に「マガリヤマ旨味工房」という大きな木製看板を掲げた。
 同工房は、2人が仕上げる干し芋と、自作した本格石窯で焼くピザの製造販売所。2人は、おそろいの帽子とエプロンとで客を迎える。「こんな風に歩調を合わせて暮らすのは初めて」と渉さん。幸枝さんは「合わせてくれているつもりなの?」と笑う。
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 2人とも長い会社員生活を経て昨年、定年退職。会社に残ることもできたというが、「人に使われるのではなく、自分の意志で歩む生活を経験してみたい」と、この道を選んだ。
 干し芋は、同居する幸枝さんの両親が守ってきた昔ながらの製法で仕上げる。両親はベテランの農家だ。
 夢を抱いての新生活の始まりだったが、定年退職した直後から「ノイローゼのようになってしまった」のは渉さん。理由は、環境が変わったことをきっかけにした思い込み。「自分が無用な人間なのでは」と感じ、自暴自棄にもなった。パチンコにのめり込み、やめていたたばこを吸い始めた。
 「おいしい石窯ピザが食べたい」
 転機は、幸枝さんの何気ない一言からだった。干し芋だけでは、年間を通した収入は見込めないため、もう一つの糧を探していた。
 渉さんが、手探りで石窯作りを始めると、近所の人たちがのぞきに来た。一帯は、農家がほとんど。「元サラリーマンのくせにやるな」と言われて悪い気はしなかった。今年5月に完成。気に掛けてくれた人たちにピザを届けると、野菜やビールなど「すごいお礼」が帰ってきた。心のこりがほぐれる感覚がした。
 正式に工房を開き、自信を取り戻し始めた頃にやってきたのが、台風15号。強風で千葉県や本県鹿行地区などに大きな被害をもたらしたものだ。
 干し芋を製造するために建てたばかりのビニールハウスも、作業小屋も吹き飛んだ。
 畑から帰ってきた渉さんを、幸枝さんが迎えた。「妻の前で、あんな風に泣いたのは初めて」と渉さん。知らず知らずにため込んでいた新生活への不安も一緒に爆発したという。
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 台風で吹き飛んだビニールハウスは、2人で力をあわせて建て直した。この冬の干し芋作りに間に合う見込みだ。最近加えた石窯メニューの「石窯パン」が好評なのもうれしい兆し。でもいま、2人の表情が明るいのは、それらとはあまり関係ない。「2人で楽しくやれればいいんだから」と、気負いを捨てたからだ。
 石窯の前には、2人が30歳代で建てた2階建てのマイホームがある。それを見上げ、「老後に向けて、平屋の家に建て替えるという夢ができたんだ」と渉さん。「宝くじを買うところからスタートしないとね」と幸枝さんが笑った。



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